ウクライナのゼレンスキー大統領(写真:AP/アフロ)

長引くウクライナ戦争に対し、日本政府は「今日のウクライナは明日の東アジア」として、その影響がアジアにも及びかねないとの警戒感を募らせています。遠く離れた国での戦争が本当に日本の安全保障に影響を及ぼすことにつながるのでしょうか。また、日本としてウクライナの安定に向けてできることとは? 前ウクライナ大使・松田邦紀氏のインタビュー後編は「日本との関係」です。

西村卓也:フリーランス記者)

【前編】糸口見えぬロシアvsウクライナの停戦、もはや「第3次世界大戦型」陣営に分かれた戦争になりつつある

——日本政府は強固にウクライナ支援の立場を取っています。

松田邦紀・前ウクライナ大使(以下、敬称略):多くの日本国民の中ではっきりとは意識されていなかったロシアに対する懸念・脅威感・恐怖心というものが、ウクライナ戦争によって外に放たれました。同時に、この侵攻が許されるなら、同じことがアジアで起きたらどうするのか、あるいはロシアの真似をする国が出てきたらどうするのか、ということを多くの日本人が直感的に理解するようになりました。ウクライナを支援する日本政府の立場は、そうした日本国民によって多くの支持を得ていると思います。

——米国と歩調を合わせようという意識はあったのでしょうか。

松田:対米追随という発想はなかったと思います。早い段階から、これは日本の問題として理解されたと思います。

 それはこういうことです。つまり、戦後日本の政治的安定や経済的繁栄、社会的・文化的進歩を支えてきた国際秩序が壊されていくという懸念、ほかに真似をする国が出てくるなどウクライナ戦争が何らかの形で東アジアに飛び火する危険、そして日本の隣国であるロシアの危うさに対する再認識。これらの要素が重なって、日本政府だけでなく国民の多くも自分たちの問題と捉えたのだと思っています。

——日本の安全保障で懸念されるのは台湾有事、そして北朝鮮の動きでしょうか。
 
松田:最初は、多くの人が「中国による台湾の武力解放」の可能性を考えたでしょう。しかし、北朝鮮のロシアに対する軍事協力、北朝鮮軍のロシア側への参戦といった動きを見ていると、朝鮮半島の新たな有事に発展する可能性も想定しなければいけなくなってきたのではないか、と考えています。

——どういうことでしょうか。