
5月に入っても年金改革関連法案が審議されないという異常事態が起きている。自民党はゴールデンウィーク前に行われた立憲民主党との国会対策委員長会議で5月中旬の国会提出、集中審議を明言。しかし、提出される法案は今回の改革の目玉とされた「国民年金の底上げ」案が削除される。7月に参議院選挙を控え、改選議員らからは今国会での法案成立に後ろ向きの声も聞こえてくる。2025年の年金改革はどうなってしまうのか。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
与党・自民党内で改革への慎重論が続出
昨年末にはiDeCo(個人型確定拠出年金)の拠出上限額が月7万5000円(会社員や公務員は同6万2000円)に引き上げられると報道され、NISA(少額投資非課税制度)に続くiDeCoブームの到来に期待を寄せる声が高まった。にもかかわらず、その後の進展がさっぱり聞こえてこない。
それもそのはず。iDeCoの改正を含む年金制度改革関連法案の国会審議が大幅に遅れているのだから。
公的年金制度の5年に1度の健康診断に当たる「財政検証」を経て、今国会では制度の改革案が議論されるはずだった。ところが、与党・自民党内で改革への慎重論が続出し、改革案が検討の段階で次々と見送られる異例の事態になっている。

鍵を握るのは7月に予定されている参議院議員選挙だ。自民党には2007年に行われた参院選で、年金記録5100万件近くが誰のものか分からなくなっていた「消えた年金」問題のあおりを受け、惨敗した苦い経験がある。選挙の2カ月後には当時の安倍晋三首相が辞任している。
年金改革の場合、制度の複雑さと超長期的な視点から、将来のために有用であっても、その価値が分かりづらかったり、目先は不利益に思えたりすることがある。結果として国民の反発を招きやすく、野党からの追及も受けやすい。年金問題はいまだに自民党のトラウマであり、改選議員からすれば、選挙の前に目立った改革はしてほしくないというのが本音のようだ。
今回の改革案の目玉とされたのは、就職氷河期世代の老後対策も視野に入れた「国民年金の底上げ」だった。