テイラー・スウィフト氏のパフォーマンスは多くのファンを魅了している(写真:REX/アフロ)

シンガー・ソングライターのテイラー・スウィフト氏が、初期に制作したアルバム6作品の原盤権を自身の手に取り戻した。トランプ大統領への不支持など政治的な発言にも注目が集まるスウィフト氏のこのニュースは、音楽業界にとって「大激震」とも報じられている。スウィフト氏の揺るがない信念が、混迷する世界における希望の光として多くの人たちを熱狂させている。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 テイラー・スウィフトというシンガー・ソングライターは、混沌としたこの時代に光り輝く希望の星のようであるーー

 そんな思いを沸き起こさせるニュースが5月末、世界を駆け巡った。テイラーさんが制作した初期のアルバム6作品の権利を、彼女自身が取り戻したというものだ。

 主に米メディアは過去の楽曲の権利奪還が、テイラーさん本人や彼女を長年支えてきたファン(インスタグラムのフォロワーは2億8千万人を超える)、また音楽業界全体にとって大激震であったことを伝えている。テイラーさんは、自身のサイトに手書きの長文メッセージをあげた。その中で「この事が本当に起きていると分かってから、ふとした瞬間に涙が溢れてしまう」と喜びを綴っている。

 また、すべての音楽動画やコンサート映像、アルバムアートや画像、未発表曲に加え「思い出、魔法、狂気、すべての時代、私の人生すべての作品」が自分のものとなったと続けた。

 事の経緯は20年ほど前に遡る。当時まだ15歳だったテイラーさんは2005年、「ビッグ・マシーン」というレーベルと13年契約を結んだ。その在籍時に制作した6枚のアルバムは、いずれも数百万枚の売り上げを記録している。

 しかし2018年テイラーさんがレーベルを移ると、彼女の原盤権を所有していた「ビッグ・マシーン」は、翌年別会社に売却された。当時のテイラーさんのTumblr投稿によれば、彼女は自身の作品を所有することを何年も懇願してきたが、ビッグ・マシーンは条件として同社との再契約を迫ったという。そして、新アルバム1枚を制作するごとに過去6枚のアルバムの権利を1枚ずつ「獲得」しろと持ちかけた。

 テイラーさんは、契約すると即座にレーベルが売却され「私と私の未来が売り払われてしまう」と感じてこれを拒否。それまで血の滲むような努力で作ってきた、思い入れの深い楽曲を捨て去るという苦渋の決断をした。

 彼女の不安は的中した。その上テイラーさんの想定外だったのは、原盤権が売り飛ばされた先が彼女にとっての「宿敵」だったということだ。先の投稿によれば、売却については事前にテイラーさん側には通知されず、世間に発表されて初めて知ったのだという。