
今や半導体は経済安全保障の要であり、各国が自国での開発・製造に注力している。水平分業化された半導体産業において、足元ではファブレス(設計)の米エヌビディアとファウンドリー(製造)の台湾TSMCが大きくリードしているが、技術進化は早く、勢力図がいつ一変しても不思議はない。本稿では『日台の半導体産業と経済安全保障』(漆畑春彦著/展転社)から内容の一部を抜粋・再編集。世界の半導体産業と主要企業を概観するとともに、日本の半導体開発の最前線に迫る。
TSMCはなぜライバルの追随を許さないのか。創業者・張忠謀(モリス・チャン)氏の経営哲学から「強さの秘密」を読み解く。
TSMCの事業と成功要因

TSMC売上高の8割を占めるのが、スマートフォン、高性能コンピューティング(High Performance Computing:HPC)向けのチップである(図表3-4)。5Gの普及に伴うAI向け半導体のほか、この数年は、IoT(Internet of Things)の拡大に伴うデータ量の増大やデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進など、コンピューティング能力の増強に向けたHPC向け半導体の需要が顕著である。
TSMCは、現時点で回路線幅3~5nmを用いた先端半導体を製造できる唯一無二の存在である。その半導体プロセッサは、他に先行して極限まで微細な回路線幅(解像線幅)を実現するからこそ高い評価を得ている。線幅5nmプロセスは2019年まで、3nmプロセスは2022年まで実用化されていなかった。5nmが2020年に実用化されると、半導体ウェハ売上全体の7.7%を売り上げ、これが2021年には18.7%、2023年には7nmを上回り、33.4%と同社最大の規模となった。また、3nmは2023年の実用化後、半導体ウェハ全体の5.7%を占めている(図表3-5)TSMCが販売する半導体ウェハのうち、最先端の回路線幅3~7nmプロセスは、2023年には全体の60%近くを占めるようになっている。
■図表3-4 TSMCの収益構成

拡大画像表示
■図表3-5 TSMC半導体ウェハの回路線幅別売上構成

拡大画像表示